風が哭いていた。
ただの音ではない。喉の奥で詰まった何かが出られずにいる、あの種の音だ。峡谷の両壁が風道として機能し、岩と岩のあいだを空気が削り取られるように通り抜けるとき、それは叫びというより悲鳴に近かった。サクラはその音を聞いた瞬間から、ここだと思った。
場所の名前は地図に残っていなかった。里の古参の忍びたちは非公式にそう呼んでいた——吼え谷、あるいは啼き谷。正式な地名は単に「北東第七峡谷」だ。しかし地図の名前が何であれ、そこに降り立ったとき、人間の言語で付けられた名称よりも、風の哭く声のほうがずっと正確だとサクラは感じた。
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