Chapter 6: Mu-no-Kimi Arrives Without Luggage

翌日の昼前、コは上浴場の仕事を終えて廊下を歩いていた。手ぬぐいを三枚重ねても湯の熱は滲みてくる。脱いだ一番外の布を腕に抱えながら、指の先がまだ赤いのを確かめた。痛みはなかった。感覚が戻るまでしばらくかかるのがいつものことで、コは今ではそれを当然のものとして受け取っていた。

廊下の角を曲がったとき、番頭の老爺が立っていた。

珍しかった。老爺は常に何かの途中にいた。帳面を持っていたり、若い神使の一人に何事か指示していたり、大浴場の棟と事務棟の間を行き来していたり——立ち止まって待っているような姿を、コはまだ見たことがなかった。

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Chapter 6: Mu-no-Kimi Arrives Without Luggage — 名もなき湯の底にて | GenNovel