エレベーターは下へ、下へ、下へと降りていった。
シンジはその振動を足の裏で感じながら、壁の一点を見つめていた。案内役の女性職員——赤いフレームの眼鏡をかけた、名前を教えてくれなかった人——は隣に立って正面を向いたまま、何も話さなかった。沈黙は別に苦痛ではなかった。シンジはずっと沈黙の中で育ってきた。ただこの沈黙は、これまでのものとは質が違った。何かを待っている沈黙だった。
地上から何十メートル降りたのか、数えるのをやめた頃、扉が開いた。
湿った空気と、金属と油脂の混ざった匂い。それから音——低く持続的なハム音、冷却装置か、あるいはもっと巨大な何かの呼吸か。シンジは一歩踏み出して、足を止めた。
正面の壁を突き破るように、それは立っていた。
高さは何十メートルあるだろう。鎧のような外装、人の形をしているが人ではない何か。薄紫がかった暗い色の装甲。頭部には顔のようなものがあり、顔のようなものであるからこそ却って恐ろしかった。無数のケーブルが天井から垂れ下がってその体に繋がれており、巨人は両腕を広げた姿勢で固定されていた。磔刑のような格好で。
汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン初号機。
書類にその名前はあった。写真もあった。しかし写真というのは、匂いも音も、空気の重さも伝えない。シンジはのどの奥で何かが締まるのを感じながら、首を持ち上げてその頭部を見上げた。遠すぎて表情は読めない。そもそも表情があるのかどうか。
「碇司令がお待ちです」
女性職員が言った。それだけだった。
司令室へ向かう通路は長く、照明が青白かった。すれ違う職員たちは一様に白いユニフォームを着ていて、シンジのことを見ないようにしていた——というより、見ているのに見ていないふりをしていた。その感覚はわかった。シンジも長年、同じことをされてきた。
父に呼ばれた、とシンジは思っていた。呼ばれた、という表現は正確ではないかもしれない。送られてきた手紙には「来い」とは書いていなかった。ただ転居先の住所と、NERV本部への入構許可証が同封されていた。十四年間の沈黙の後で、それが父からの最初の言葉だった。住所と許可証。
父は自分に何をさせたいのか。シンジにはわかっていた。書類を読めばわかった。ケージの中の巨人を見ればわかった。ただわかっていることと、それに備えられることの間には、途方もない距離がある。
重厚な扉が左右に開いた。
部屋は暗かった。大きな窓の向こうに初号機の頭部が見えた——さっきとは反対側から見上げる形で、今度は目の高さに近かった。部屋の中央、ひな壇のように高い位置にデスクがあり、男が座っていた。
背中を向けていた。椅子ごと窓の外を向いていた。
「シンジ」
声は低く、平坦だった。感情の起伏を意図的に削り落としたような声。それとも最初からそういう声なのか、シンジには判断できなかった。十四年間、その声を聞いたことがほとんどなかったから。
「来たか」
来たか、と父は言った。疑問形の体裁を持っているが、疑問ではなかった。シンジが来ることはわかっていた。シンジが来ることしかあり得なかった。その確信が声の中にあった。
シンジは十二歩ほど部屋に入って、止まった。
ゲンドウは振り返らなかった。組み合わせた手が顎の前で静止している。その姿勢のまま、言った。
「乗れ」
二文字だった。命令形。指示書も説明もなかった。乗れ、という言葉の前後には何もなく、ただその二文字だけがあった。
エヴァに乗れ。初号機に乗れ。使徒と戦え。
シンジは父の背中を見ていた。グレーのスーツ。白髪交じりの黒い髪。白手袋をはめた指が、ゆっくりと組み直された。それだけだった。そこには何もなかった——息子に対する感情の欠片も、再会への態度も、十四年分の空白を埋めようとする言葉も。ただ指示があった。機械への指示と同じ形をした言葉が。
シンジの手が、ズボンの縫い目に沿って、わずかに握られた。
彼は自分でも驚いた。その言葉が出てくるとは思っていなかった。出してはいけないと思っていた。そんな選択肢は存在しないと信じていた——信じさせられていた、あるいは信じ込んでいた。でも声は出た。唇の隙間から、ほとんど息のような形で。
「……嫌です」
部屋が止まった。
というのは比喩だが、実際にそれに近い何かが起きた。シンジの背後に控えていた副官らしき男が、書類を持ったまま動きを止めた。モニターの前に座っていた技術者が、キーボードの上で指を浮かせた。空調の音だけが続いていた。
父は振り返らなかった。
それがすべてだった。
怒鳴るわけでもなく、立ち上がるわけでもなく、ゲンドウは微動だにしなかった。シンジはその背中が何かを語るのを待った。謝罪でも、失望でも、怒りでもよかった。何でも、何であれ、何らかの反応が来るはずだと思って待った。
何も来なかった。
長い沈黙の後、ゲンドウは静かに、こう言った。
「……そうか」
それだけだった。
そうか。二文字。命令と同じ文字数。同じ平坦さで。まるでデータの入力が一つ失敗したことを確認したような、それだけの声だった。感情がないのではないかもしれない。ただ感情というものをこの男はずっと以前に、鍵のかかる場所に仕舞い込んでしまったのかもしれない。そのどちらなのか、シンジにはわからなかった。わかりたかった、とも言えなかった。
ゲンドウが指を動かした。何かの指示——シンジには見えなかったが、背後の空気が変わった。副官が前に出た。
「こちらへどうぞ」
副官の声は丁寧だった。丁寧すぎて、何も含んでいないように聞こえた。
シンジは一度だけ父の背中を見た。窓の外の初号機を見ながら、ゲンドウは再び指を組んでいた。もう息子のことは計算の外に置いた——いや、別の計算に移した。その背中はそれを言っていた。
扉が閉まった。
廊下は長かった。副官がいくつかの角を曲がり、シンジはその後をついていった。自分の靴の音が聞こえた。コンクリートの床に反響する、軽い足音。副官の足音はもっと確固としていた。目的を持つ人間の歩き方をしていた。
一時収容区画、と書かれた扉の前で止まった。
「当面の間、こちらをお使いください」
副官は部屋の中を示した。シンジは中に入った。折り畳みベッドとスチールデスクと、小さな窓。窓の外は地下の空洞で、遠くにパイプと照明が見えた。
「何かあればインターコムで」
副官は扉を閉めた。
カチン、と金属が噛み合う音がした。
シンジはベッドの縁に腰を下ろした。ベッドは軋んだ。背中を丸め、膝の上に手を置いた。指先が少し白くなっていた。気づかないうちに、ずっと握りしめていたらしかった。
嫌です、と言った。
その言葉はどこから来たのだろう。シンジには正確にはわからなかった。怒りではなかった。怒りならもっと熱があるはずだった。恐怖でもなかった——いや、恐怖はあった、しかしそれが言葉になったわけではない。では何が。なぜあの言葉が出たのか。
父の声が耳の奥に残っていた。乗れ。二文字。
十四年間の沈黙の後で、初めて聞いた父の声がそれだった。
シンジは小さく息を吐いた。音のない息。それから天井を見上げた。コンクリートの天井に、染みが一つあった。形は不定形で、何かに似ているとも言えなかった。
廊下の向こうで、足音がいくつも行き交っていた。
機械は動いている。何かが起きている。自分の「嫌です」という言葉を受けて、NERV本部のどこかで別の計算が始まっている。それはシンジにも感じられた。足音の速さと、扉の開閉する音と、遠くから聞こえるインターコムの声。組織というものは、一つの歯車が噛み合わなくなっても止まらない。別の歯車を探す。
その別の歯車が誰なのか、シンジはまだ知らなかった。
ただベッドの上で、両手を膝に乗せたまま、自分が言った言葉の重さを、これからゆっくりと理解していくことになるのだと、そんな予感だけがあった。
廊下の足音は続いていた。