Chapter One: The Naming at Wuhe Village

雨は夜更けから降り続けていた。

街道の泥は深く、踏み込むたびに黒い水が沓の縁からにじみ出た。丘玄風は蓑を着けず、ただ素の道袍一枚で歩いていた。濡れることを厭う心が、どこかで失われていた。いつからかは覚えていない。

前方の榎の根元に、男が座っていた。

旅人の姿をしていた。笠を目深にかぶり、膝の上で手を組み、一見すれば街道で雨宿りをする疲れた商人にも見えた。しかし丘玄風の足が止まった。止まったのは思惟ではなく、もっと古い何か——骨の記憶、あるいは皮膚が先に知る冷気——に促されてのことだった。

男が顔を上げた。

笑っていた。この状況で、この雨の中で、笑うべき理由のある笑い方ではなかった。

「丘道士」と男は言った。「臨安より参りました」

丘玄風は答えなかった。

「お連れする、と言えば、ご同行いただけますか」

木々の暗がりに、もう二人の影があった。丘玄風は目を細めた。雨脚が激しくなり、榎の葉が一斉に揺れた。

剣は抜かれなかった。丘玄風が手を動かしたのは一度だけで、それは剣を抜く動作ではなく、もっと静かな、ほとんど礼儀正しいとさえ言える所作だった。しかし笠の男は椅子から立ち上がる途中で止まり、二つに折れた。暗がりの二人が動くより先に、丘玄風はもう彼らのいた場所を通り過ぎていた。

三つの気配が消えた。雨の音だけが残った。

丘玄風は歩みを止めなかった。手首にかすかな痛みがあった。老いた、と彼は思った。かつてはこの程度では痛まなかった。

臨安の朝廷が密偵を差し向けてきたのは、これで四度目だった。彼らは道士が生きているという事実を、地図の上の汚点のように感じているのだろう。汚点は消せばよい。それが彼らの行政的な論理だった。

街道の分岐に、燈籠の明かりが滲んでいた。

村だった。

寒村と呼ぶより他のない集落だった。茅葺きの家が七軒か八軒、田の縁に沿って並び、村口に一本の老槐が立っていた。雨の中でその木は黒く濡れ、枝の先端が灯籠の光を受けてかすかに光っていた。丘玄風はその光の色を見て、なぜかしばらく足を止めた。

村の名を示す板が槐の幹に打ち付けてあった。烏合、と読めた。

その夜、彼は軒先の雨を避けながら、開かれた戸口の向こうから「道士殿、どうぞ」と呼ばれた。声は太く、しかし敵意のない種類の太さだった。

家の中には男が二人いた。

一人は霍天嘯といった。大柄で、顎に粗い髭を蓄え、肩の張り方が常人と異なっていた。武人の肩だった。座っていても、その体は何かをいつでも迎え撃てる構えを保持していた。もう一人は沈鉄魂といい、こちらはやや小柄で色浅黒く、眉が濃く、目に知性の光があった。酒杯を持って座っていたが、丘玄風が入ってきた瞬間に杯を置いたその速さに、これもまた尋常の人間ではないと知れた。

「烏合村へようこそ」と霍天嘯は言った。「雨の夜に道士殿をお迎えするのは吉兆です」

「吉兆かどうかは、まだわかりません」と丘玄風は答えた。

沈鉄魂が笑った。「正直なお方だ」

奥の部屋から、人の気配がした。女の気配だった。二つ。どちらも重く、大地に根差したような、命が命を孕んでいる時特有の沈黙を帯びていた。

霍天嘯の表情が、ほんのわずかだが、やわらかくなった。「妻たちが、いま月が近い。ともに。奇縁なことに、ほぼ同じ頃に」

「二人とも」と丘玄風は言った。声に何かが混じった。彼自身も気付かなかったかもしれない。

「さよう」と沈鉄魂が答えた。「先生方は笑うかもしれませんが、我々は同じ夜に子を授かりました。一年前の、嘉禾祭の夜に」

丘玄風は少しの間、黙った。

それから彼は蓑の中から、折りたたんだ布を取り出した。濡れていなかった。胸元で大切に守られていたその布を、彼はゆっくりと膝の上に広げた。筆と硯が、中に包まれていた。

「名を付けさせてください」と彼は言った。

二人の男が顔を見合わせた。

「道士殿が、ですか」と霍天嘯が訊いた。

「もし、ご迷惑でなければ」

沈鉄魂が先に頷いた。「我々には、名付けの智慧がない。剣を握ることは知っているが、文字に魂を込めることは知らぬ。どうかよろしくお願いします」

丘玄風は硯に水を注いだ。水は彼の道袍の袖から絞ったものだった。笑える話だったが、誰も笑わなかった。

墨を磨る音が、雨音に混じった。

滴が垂れた。燈台の炎が揺れた。丘玄風の手が止まり、彼は二枚の紙に、それぞれ一文字ずつ書き始めた。筆の動きは遅くなかった。しかし急いでもいなかった。何かを惜しむように、あるいは何かに許しを請うように、その手は動いた。

霍の子には、靖という字を。

沈の子には、康という字を。

「靖康」と丘玄風は言った。声は低く、ほとんど独り言のようだった。「百年前、金兵が汴京を陥れた年号です。二人の皇帝が囚われ、北へ連れ去られた。我々は今もその恥辱の中に生きている。靖康の恥を、忘れるな」

霍天嘯の顔が変わった。その変化は複雑で、怒りでも悲しみでもなく、むしろ何か深い場所にある石が動いたような、内側の地形が変わるような変化だった。

「重い名だ」と彼はゆっくりと言った。

「はい」と丘玄風は答えた。「しかし、重さに耐えるだけの子でなければ、名前が名前である意味がない」

沈鉄魂が杯を持ち上げた。中の酒はとうに飲み干されていたが、彼はそれでも杯を持ち上げた。「では、我が子は康と名乗る。霍殿の子は靖と。共に、靖康の恥を背負って生まれてくる」

「二人で一つの誓いを持って生まれてくる」と霍天嘯が言い、その声は微かに震えていた。

丘玄風は頷いた。紙を乾かすために、そっと燈台の傍に置いた。炎が一瞬、強く揺れた。

その夜更け、客間に横たわった丘玄風は眠れなかった。

雨はまだ降っていた。屋根を叩く音は規則正しく、それがかえって眠りを遠ざけた。彼は懐から小さな冊子を取り出した。紙は黄ばみ、端が擦り切れていた。長年、彼が旅の中で付けてきた日録だった。

筆で、彼は書き始めた。

烏合村にて。雨。

今夜、二人の義士の子に名を与えた。霍靖と沈康。靖康という二字を二人の命に分けて背負わせた。これが正しい行いかどうか、私には判断できない。

正直に書く。私は今夜、天の気配を読んだ。星は雲に隠れていたが、それでも読める。読んでしまう。この能力を、私はかつて天の恩寵だと思っていた。今は呪いだと思っている。

霍靖という子の命は、硬い。石のように硬く、しかし石ではない。何か——生きているものの硬さ。傷つきながらも欠けない種類の硬さ。この子は長く生きる。しかし何かを失いながら生きる。

沈康という子の命は、鋭い。刃のように鋭く、磨かれるほどに鋭くなる。この子もまた長く生きる。しかし何かが、どこかで、歪む。

二人の命が交わる場所が、遠くにある。霧の中にあるので形が見えない。ただ、水の気配がする。静かな水の気配が。

この村は危ない。

私が今夜、密偵を三人斬った。臨安の朝廷は私の居所を追っているが、この村は私を匿った。それは、この村の人々の罪になる。

霍天嘯と沈鉄魂は強い。しかし強さは、十分な数には勝てない。

私は明朝、発つべきだろう。しかし二人の妻の月が近い。子が生まれる前に私が去ることが、この村にとって吉か凶か。

わからない。

わからないのに、名を付けた。なぜ付けたのか。

子供たちにはまだ生まれてもいない。しかしその命は、すでにここにある。私は今夜、その命の重さを感じた。父となる二人の男が、その重さを肩に担っている様を見た。

名前だけが、私に与えられるものだった。

名前だけが。

それで十分なはずがない。しかし名前以外に、私には何も与えられるものがない。

丘玄風は筆を置いた。

冊子を閉じた。

天井に向けて目を開けた。板の隙間から、冷たい空気が流れ込んでいた。雨の匂いがした。泥の匂いがした。そして、かすかに、どこかの家から漂う粥の匂いがした。

妊婦のために炊いているのだろう、と丘玄風は思った。

夜中の粥。命のために炊かれる夜中の粥。

彼は目を閉じた。

眠れないことはわかっていたが、それでも目を閉じた。暗闇の中で、霍靖という名と沈康という名が、濡れた紙の上で乾いていく様子を、彼はまぶたの裏に見ていた。

墨が乾けば、名は定まる。

定まった名は、もう消せない。

雨が、また強くなった。

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Chapter One: The Naming at Wuhe Village — 鑑花録——剣と幻の武林 | GenNovel