土堂孝が最後にあの事務所に入ったのは、月曜の朝のことだった。
鍵を差し込んだとき、何かが違った。違和感と呼ぶには具体性が足りなかったが、ドアノブを回す前に手が止まった。三十年の積み重ねが作り上げた感覚で、土堂はそれを「空気の質」と呼んでいた。誰かがそこにいる、あるいはいたときの空気の質が、建物にはしばらく残る。
手を離して、一歩下がった。
Create a free account to unlock all chapters. It only takes a few seconds.
Sign In FreeCreate your own AI-powered novel for free
Get Started Free