翌朝、コは上浴場の仕事を終えてから、昼の休憩が始まるまでの短い間に、一号室の前に立った。
廊下はいつものように薄暗く、石の床は冷たく、遠くから大浴場の湯音が届いていた。一号室の引き戸は閉まっていた。その向こうから音はしなかった。しかしコは、この扉の向こうにある静けさが、空の部屋の静けさとは違うことを、なぜか知っていた。空の部屋は静かなのではなく、ただ何もないのだ。この扉の向こうの静けさは、何かが息をしている静けさだった。
コは引き戸の前に立ったまま、少しの間、自分が何をしに来たかを確かめようとした。昨日の問いが、石のように胸の中にあった。前にここへ来る前の自分はどんな顔をしていたか。コはその問いに答えられなかった。答えられなかっただけでなく、問い自体の輪郭を掴めないでいた。石は硬かったが、形がよく見えなかった。
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