Chapter 1: The Robot in the Closet and the Boy Who Was Never Quite Sorry

押し入れの扉が内側から開いた。

少年は宿題のプリントを顔の前に持ったまま、動かなかった。扉は軋まなかった。音もなかった。ただ、閉まっていたものが、開いた。

出てきたのは、青みがかった丸い体をしたロボットだった。猫ほどの耳のような突起が頭の両側にある。目は二つの白い楕円で、表情というものを持たないように設計されているらしかった。部屋の中を一度見回してから、ロボットは少年の前に立った。

「ノビオ・ノビタ。十二歳。現在の学力偏差値、三十一」

少年はプリントを下ろした。

「ノビオじゃない。少年だ」

「失礼。少年」ロボットはそう言い直してから、胸のあたりから一枚のカードを取り出した。ラミネート加工された、小さなカードだった。「私はドラ八。二十二世紀から派遣されました。所属機関の名称は、日本語に訳すと『人類回避可能失敗防止局』になります」

少年はカードを受け取った。確かにそう書いてあった。英語と日本語と、もう一つ読んだことのない文字で、三段に。

「未来から来たの」

「はい」

「押し入れから」

「四次元空間を経由すると、最も近い入口がそこになりました」

少年はカードをロボットに返した。特に驚かなかった。今週だけで、テストに三回失敗し、図工の作品を廊下に落として壊し、隣の男の子の自転車に傷をつけていた。ロボットが押し入れから出てきたことは、そのどれよりも困った出来事ではなかった。

「で、何しに来たの」

「あなたの未来を改善しに来ました」ドラ八は言った。「現在の軌道では、あなたの人生は複数の指標において望ましくない結果をたどります。我々の局は、そのような案件に対し、適切な道具を提供することで介入を行います」

「道具」

「はい。道具です」

ドラ八はお腹のあたりに手を当てた。そこに、ポケットがあった。見た目には普通のポケットだったが、手が入っていく深さが普通ではなかった。腕が肘まで埋まった。それでもまだ底に届いていないようで、ドラ八は少し首を傾けた。やがて、何かを引き出した。

掌に乗るほどの、小さな機械だった。

「謝罪装置です」ドラ八は言った。「正式名称は『最適化謝罪自動生成器・家庭用モデル』。使用者に代わり、適切な謝罪を自動的に生成し、対象者に伝達します。取扱説明書をお読みください」

机の上に、薄い冊子が置かれた。少年はパラパラとめくった。

「難しい字が多い」

「要約します。このボタンを押すと、使用者が謝罪を要する相手を自動的に検索し、最適な言葉で謝罪を行います。使用者の直接的な介入は必要ありません」

少年は機械を手に取った。ひんやりしていた。銀色で、ボタンが一つだけあった。

「何人に謝らなきゃいけないか、どうやって知るの」

「内蔵センサーが使用者の記憶と行動履歴を参照します」

「十一人くらいいる」

「十三人です」ドラ八は言った。「お二人、お忘れのようです」

少年は少し考えた。二人、思い当たった。一人は先月のことで、もう一人は去年の春だった。どちらも、謝るタイミングを何度か逃しているうちに、謝り方を忘れてしまっていた案件だった。

「使っていいの」

「それが目的です」

少年はボタンを押した。

機械は何も言わなかった。光ることも、音を立てることもなかった。ただ、かすかに温かくなった。それだけだった。

「もう動いてる」とドラ八は言った。「現在、十三件の謝罪処理が進行中です」

窓の外を、夕暮れの光が横切っていった。台所から、母親が夕飯の準備をする音が聞こえた。鍋の底をおたまで叩く音と、水が沸き始める音と、ため息の音が、いつもの順番で重なっていた。

少年は機械を膝の上に置いて、宿題のプリントに目を戻した。問題が六問あって、三問は意味がわからなかった。

夕食の間に、最初の謝罪が届いたらしかった。

食べ終わって食器を流しに持っていくと、母親が珍しい顔をしていた。驚いている顔ではなく、算数の問題が解けたときに近い顔——答えが合っているようだが、どこかに間違いがある気がするときの顔だった。

「さっき、鈴木さんから電話があった」

少年は食器を置いた。鈴木さんというのは、先週お辞儀をしそこなった隣のおばさんだったか、それとも去年の秋に傘を壊した鈴木さんのほうだったか、少年にはすぐわからなかった。

「なんて言ってたの」

「あなたから謝罪の手紙が来たって。電話で」

「手紙が電話で?」

「そういうことを言ってた。内容はとても丁寧だったって。あなたらしくなかったって」

少年は何も言わなかった。

「何かしたの」と母親は聞いた。

「いや」と少年は言った。そしてそれは嘘ではなかった。鈴木さんに何をしたのか、もう覚えていなかった。

母親は少し少年を見た。それから流しの方を向いた。

「まあいいけど」と言った。「ちゃんと謝れたなら、それでいいけど」

少年は自分の部屋に戻った。

夜の九時すぎ、機械がまた温かくなった。少年は布団の中でそれを感じた。

十三件。そのうちの何件目かが、今、処理されているのだろう。少年は天井を見た。去年の夏、誰かのノートを破いた。冬、誰かの消しゴムを無くした。春、誰かの鉛筆を折った。誰かが誰かで、何をしたのかが、だんだんと輪郭を失っていくような気がした。

机の上では、ドラ八が静かに立っていた。充電中なのかもしれなかった。目の楕円が、少し暗くなっていた。

「ドラ八」

「はい」

「謝ったら、許してもらえる?」

「謝罪の受け入れ率は現在、九十二パーセントを推移しています」

「残りの八パーセントは?」

「処理中です」

少年はそうか、と言って目を閉じた。

九十二パーセント。悪くない数字だった。テストで九十二点を取ったことは一度もなかった。少年はそんなことを考えながら、眠くなっていった。毛布が顎の下まで上がっていた。部屋の外で、何かが風に揺れていた。

十三件の謝罪は、それぞれの家に届いていた。そのどれもが、過去に少年がそこに置き忘れてきたものだった。そしてそれが何であったか、少年はもう、一つも思い出せなかった。

翌朝、少年は学校へ行く前に機械を確認した。

「処理完了」とドラ八は言った。「十三件、すべて対応済みです。受諾率、九十四・六パーセント」

「上がった」

「二件、追加で受諾がありました」

「よかった」と少年は言った。そして、それ以上何も感じなかった。

謝るべき相手が誰だったか、もう覚えていなかった。何をしたから謝らなければならなかったのか、輪郭がない。ただ、すっきりした。引き出しの中を整理したときのような、あの空っぽの感触があった。

ドラ八は一つのノートに何かを書き込んでいた。几帳面な文字で、縦に細かく記録されていた。少年が覗くと、「部分的成功」と書かれていた。

「全部成功じゃないの」

「謝罪の伝達は完了しました」ドラ八は言った。「ただし」

「ただし?」

ドラ八は少し間を置いた。

「取扱説明書の三ページ、お読みになりましたか」

少年は首を振った。二ページ目の途中で止まっていた。

「三ページに何が書いてあったの」

「後でお読みになるといいと思います」とドラ八は言った。

少年はランドセルを背負って、玄関を出た。

空は明るかった。隣の男の子が、自転車で先に行くところだった。少年より少し早く家を出て、少し先を走っていく。いつものことだった。自転車のフレームに、小さな傷があった。少年が先月つけた傷だった。

謝ったはずだった。

しかし何故謝ったのかは、もう、霧の向こうにあった。

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Chapter 1: The Robot in the Closet and the Boy Who Was Never Quite Sorry — ポケットの底には何もない | GenNovel