Chapter 1: The Garage at the Edge of the Valley

サーバーラックが唸りを上げた。

ファンの回転音は低く、規則的で、まるで病院の処置室で聞く心電図モニターのようだった。劉玄徳はその音を聞きながら、マグカップを口に運んだ。コーヒーはとっくに冷えていた。

「繋がった」

関羽の声が、段ボール箱と延長コードで埋め尽くされたガレージに響いた。午後十一時十七分。パロアルトの住宅街は静まり返っていて、通りを挟んだ向かいの家では、もうすべての窓の灯りが落ちていた。

「本当に繋がったのか」

「試してみろ」

劉玄徳はキーボードに指を走らせた。応答速度が遅い。三秒、四秒。それでも返ってきた。エラーではなかった。彼はゆっくりと息を吐き出した。

「電気代、また今月も誰かの善意か」

「隣の佐々木さんが快く分けてくれている」関羽は言った。彼の声には感謝と恥が等量で混じり合っていた。元NSAのレッドチームオペレーターが、隣人の延長コードを頼りにサーバーを動かしている。「先週の金曜日、ビールを六本持って挨拶に行った」

「それで足りるわけがない」

「足りないことはわかっている。だから毎週持っていく」

ガレージの奥から激しい足音が近づいてきた。張飛だった。彼は百九十センチ近い体躯に、よれよれのポロシャツを纏い、片手に冷えたピザの箱を抱えていた。もう片方の手にはビールが三本。指の間に器用に挟んでいた。

「ウォレスからメッセージが来た」張飛はピザの箱をホワイトボードの前の折り畳みテーブルに叩きつけるように置いた。「今夜は無理だとさ」

「理由は」

「理由?」張飛はビールの一本を床のコンクリートに置き、残り二本を劉玄徳と関羽に放った。「魏テック。それだけだ」

沈黙が落ちた。

ウォレス・チェンは、この三ヶ月で最も手応えを感じていた投資家だった。サンフランシスコを拠点とする中堅VCのパートナーで、シリーズAの資金調達交渉はすでに最終局面に入っていた。三百万ドル。その数字があれば、少なくとも一年は戦える。採用もできる。オフィスも借りられる。隣の佐々木さんの好意に頼らずに済む。

「いつ決まった」劉玄徳は訊いた。

「今日の昼過ぎに魏テックのCFOと会ったらしい」張飛はビールの栓をテーブルの縁に引っ掛けて開けた。「向こうが先に手を打ったんだ。ウォレスのファンドに投資枠を用意した。うちへの投資と引き換えに」

「抱き込んだのか」

「そういうことだ」

劉玄徳はマグカップをゆっくりと作業台の上に置いた。陶器がコンクリートに当たって、乾いた音がした。彼は立ち上がり、ホワイトボードのほうへ歩いていった。三ヶ月分の戦略が、色とりどりのマーカーで書き込まれていた。アーキテクチャ図、競合分析、資金フロー。すべてが、この瞬間に意味を失いかけていた。

「曹孟徳か」

呟くような声だった。

魏テック。業界の誰もがその名を口にするとき、少しだけ声のトーンを変える。敬意とも恐怖とも取れる、奇妙な抑揚で。曹孟徳が深圳の裏通りから這い上がり、十五年でシリコンバレー最大のテクノロジー企業を築き上げた話は、業界のあらゆる神話の中で最も現実的な、そして最も残酷な物語として語り継がれていた。

「やつは俺たちのことなど眼中にない」関羽が言った。「ただ、俺たちに投資しそうな人間を片端から潰している」

「それが戦略だ」劉玄徳は言った。「敵を倒すのではなく、敵が立てる場所を奪う」

「それで俺たちはどうする」張飛がピザを口に詰め込みながら訊いた。「給料、あと三週間しか払えないぞ」

数字は正確だった。張飛は粗暴に見えて、会計だけは几帳面だった。口座の残高は、次の給与サイクルをかろうじて一回乗り越えられる程度しか残っていない。

劉玄徳はホワイトボードを見つめていた。

蜀ソフトを始めたのは、二年半前だ。大手IT企業のエンジニアとして十年勤め、最後の三年は本社のデータ戦略部門にいた。そこで見たものが、彼をこのガレージへ追い込んだ。ユーザーの行動データが、ユーザーの知らないうちに何十もの目的に転用されていた。同意書の文字は六ポイントで印刷され、法務部は「開示している」と主張した。確かに開示はしていた。誰も読まない場所に、誰も理解できない言葉で。

劉玄徳は辞表を出した日のことを覚えている。上司は最初、休暇を勧めた。次に昇進を提示した。最後に、困惑した顔をした。なぜ、と。これだけの条件で、なぜ出て行くのかと。

答えは単純だった。技術は人間に仕えるべきものだ。人間が技術に仕えるためではなく。

「俺は会社を売らない」劉玄徳はホワイトボードに向かったまま言った。

「そんな話はしていない」張飛が言った。

「するぞ、いずれ」劉玄徳は振り返った。「次の投資家がまた消えたとき。その次も消えたとき。必ず誰かが言い出す。売れ、と。合併しろ、と。俺はそのとき迷わないために、今言っておく。売らない」

関羽はビールを持ったまま、静かに立っていた。その目が、何かを確認するように劉玄徳を見ていた。

「龍の旗を下ろすつもりはない、ということか」

「蜀ソフトには旗がない」

「だから下ろせない、という意味なら同じだ」関羽は言った。「俺も売らない」

張飛はピザをテーブルに戻し、立ち上がった。百九十センチの体が、低い天井のガレージでは窮屈そうだった。

「当たり前だ」彼は言った。「売るくらいなら、俺が先に潰す」

それが蜀ソフトの誓いになった。会議室ではなく、折り畳みテーブルの前で。署名した書類もなく、証人もなく、ただ三本のビールと冷えたピザと、唸り続けるサーバーラックだけを前にした誓いが。

劉玄徳はマーカーを手に取り、ホワイトボードの空いたスペースに何かを書き始めた。関羽が横に並んだ。張飛も来た。三人が横一列に並ぶと、ガレージがさらに狭くなった。

「これは」関羽が訊いた。

ホワイトボードに描かれていたのは、奇妙な構造図だった。中心に「龍の陣」という文字があり、そこから無数の矢印が伸び、市場セグメントと技術スタックと流通チャネルが複雑に絡み合っていた。

「俺が考えた拡張戦略だ」劉玄徳は言った。「エンタープライズとコンシューマーを同時に押さえる。オープンAPIで開発者コミュニティを取り込む。魏テックのエコシステムを内側から崩す」

張飛は図を眺め、それから劉玄徳を見た。

「頭がおかしいのか」

「少しそうかもしれない」

「規模が三倍必要だ。いや、五倍か」張飛は指で矢印を辿りながら言った。「人も、金も、技術も。俺たちの三倍、五倍」

「わかってる」

「じゃあなんで描いた」

劉玄徳はマーカーのキャップを閉じた。その音が、静かなガレージに短く響いた。

「可能かどうかを考えるためじゃない」彼は言った。「どうすれば可能になるかを考えるために描いた」

関羽がホワイトボードの中心、「龍の陣」という文字を指差した。

「これはプロダクトの名前か」

「いや」劉玄徳は首を振った。「会ったことのない人間の仕事の名前だ」

沈黙。

「誰の話だ」

劉玄徳はマグカップを手に取り、冷えたコーヒーを飲み干した。苦く、薄く、胃に落ちた。

「三年前に発表されて、すぐに消された論文がある。AIの量子ニューラルアーキテクチャに関する研究で、査読した専門家が全員、『十年早く生まれた論文だ』と言った。著者は諸葛孔明。MITの研究員だったが、論文が消えた直後に行方をくらました」

「なぜ消えたんだ」

「業界ロビイストの圧力だ」劉玄徳の声は平坦だった。しかしその目に、静かな怒りが灯っていた。「論文の内容が、大手プラットフォームのビジネスモデルを根本から否定するものだったから。真実だったから、消された」

ガレージのファンが唸り続けている。

「今どこにいる」関羽が訊いた。

「ハーフムーンベイ。崖の上の賃貸物件だと聞いた」

「会いに行くのか」

「行く」

「会ってくれると思うか」

劉玄徳はホワイトボードを見た。中心に書かれた「龍の陣」という文字を。

「会ってくれなければ、また行く」

張飛が低く笑った。ガレージに、久しぶりに笑声が戻ってきた。

「俺たちは相変わらずだな」

「何が」

「ないものを数えない。あるものを使い切る。そういうやり方が」張飛はビールを一口飲んだ。「最初からそうだった」

窓の外で、夜風がカリフォルニアの乾いた葉を転がした。通りの向こうで、一台の車が静かに走り去った。蜀ソフトのガレージだけが、深夜の住宅街の中でまだ灯りを落とさずにいた。

サーバーラックが唸りを上げていた。

低く、規則的に。まるで、眠らない意志のように。

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