Chapter 1: Descent into the Bamboo Field

何かが、燃えていた。

夜明けの空を、それは引き裂いた。東の稜線がまだ墨色の眠りの中にあったとき、西の方角から光の筋が降りてきた。隕石、と見た者がいれば言ったかもしれない。だが見た者は誰もいなかった。竹林の谷は深く、村の人間は眠っていて、老いた農夫タケトリ・コウジだけが、腰の痛みで目を覚まし、縁側の雨戸を開けたとき、それが落ちるのを見た。

光は音もなく林の奥へ消えた。

コウジはしばらく、薄暗い空を見ていた。煙は出ていない。炎も見えない。七十八年生きてきて、この竹林が燃えたことは一度もなかった。息子が生まれた年に植えた一帯が、今は鬱蒼と高くなって、夜明けの風に揺れている。大丈夫だろう。そう思ってから、それでも長靴を履いた。農夫というのはそういうものだ。確かめに行かなければ、朝飯が食えない。

露が深かった。懐中電灯の光が竹の幹を白く照らし、足元の土が柔らかく沈んだ。鳥も鳴いていない時間だった。コウジは膝をかばいながら斜面を下り、光が落ちたあたりと思しき場所へ向かった。

焦げた匂いはしなかった。

代わりに、何か甘いものの気配がした。金木犀でも沈丁花でもない、もっと透明な、嗅いだことのない匂いだった。コウジは立ち止まり、電灯を向けた。

竹の根元に、子どもがいた。

女の子だった。新生児ほどの大きさで、薄い産着のようなものを纏い、竹の葉の上に横たわっていた。泣いていない。目を閉じている。皮膚がうっすらと光っていた——本当に、光っていた。月のない夜明け前の林の中で、その小さな体は、古い蛍光灯のように、ごく微かに、白く輝いていた。

コウジは電灯を持つ手を下げた。

長い間、彼は立ったまま、その子を見ていた。驚いていなかった、と後から思い返せばそうなる。ただ、目に映るものをそのまま受け取っていた。やがて膝を折り、腰の悲鳴を無視して、濡れた葉の上の子どもを両手で抱き上げた。軽かった。信じられないくらい軽かった。だが確かに温かく、胸に抱くと、うっすらと開いた瞼の下に、暗闇の色をした瞳があった。

「ほう」

コウジはそれだけ言った。それ以上は言わなかった。

坂道を戻るとき、彼は子どもを上着の中に包んで、落とさないように気をつけながら歩いた。台所に入ると、子どもを座布団の上に寝かせ、電灯をつけ、ガスコンロに火を入れた。やかんを置いた。棚から湯呑みを二つ出してから、片方を戻した。考えてから、また出した。

湯が沸く音を聞きながら、コウジは子どもの顔を見た。光はもう消えていた。ただの赤ん坊の顔があった。眉が薄く、鼻の形が奇妙に整っていて、眠り方が妙に静かだった。呼吸しているのかと心配になって指を近づけると、鼻から微かに温かい息が出た。

茶を淹れた。安いほうじ茶だ。

調査報告書:初期観測記録

任務コード:KGY-7/テラ=プライム地表降下後、経過時間0時間18分

意識状態:封鎖中(記憶封印プロトコル作動)

センサー稼働率:0.3パーセント(最低限の生命維持機能のみ)

記録形式:自動ログ(主体的制御なし)

データ点No.001

入力:接触熱、37.2度

接触部位:手掌(外部個体による保持)

接触外部個体:有機体、高齢、男性

状態分類:不明(データベース参照不可、記憶封印中)

データ点No.002

入力:接触熱、78.4度(液体媒体)

接触時間:0.6秒

接触部位:手掌(外部個体から手渡される形式)

液体の性質:有機物含有、植物由来、揮発性芳香成分を含む

状態分類:不明

注記:センサーはいかなる感情反応も記録していない。感情抑制インプラント、クラスS、正常稼働。ただし上記二点のデータは記録閾値を超えており、物理的接触の項目として保存される。

やかんから湯を足して、コウジは少し冷ました茶を子どもの唇に触れさせた。飲む力はないだろうと思っていた。ところが子どもは薄く口を開け、数滴を、確かに飲み込んだ。

「うまいか」

返事はなかった。当然だった。コウジは自分の湯呑みを両手で包み、ひとくち飲んだ。台所の窓の外で、夜明けの色が変わり始めていた。竹の葉が動き、さやさやという音が、遠くから届いた。

どこから来たのか、とは思わなかった。

誰の子どもか、とも思わなかった。

役所に連絡するかどうか、は少し考えた。それからほうじ茶をもう一杯飲んで、考えるのをやめた。来たのだから、いるのだ。竹の間から出てきたのだから、この林の子どもだ。この林はコウジのもので、だからこの子もここにいていい。それだけのことだった。

子どもはまた眠っていた。

光は出ていなかったが、コウジには、この子どもが普通の赤ん坊でないことは分かっていた。分かった上で、分からないふりをすることにした。それが礼儀だと思った。正確には礼儀という言葉を使って考えたわけではないが、そういうことだった。この子は竹の間にいた。では、竹の間にいる資格がある何かだ。それ以上のことは、この子が自分で話せるようになったら話すだろう。

話せるようになる前に、腹が減るだろう。

コウジは立ち上がって、押し入れを探した。息子が赤ん坊だったときに使っていたものが、どこかにあるはずだった。ずいぶん昔のことだった。息子は去年、工場の事故で死んだ。葬式のとき、倉庫の奥に片付けようとして、できなかったものが、まだそこにあった。

哺乳瓶を見つけた。埃を払い、丁寧に洗った。

水を沸かしながら、コウジは竹林の方向を見た。夜明けの光が窓から入ってきていた。林は音を立てていた。風が動くたびに、幹と幹がこすれ、葉が揺れ、光が斑になって落ちた。

コウジは長年、この音を聞いてきた。息子が生まれた朝も、妻が死んだ朝も、息子の死を告げる電話があった朝も、この音は同じように鳴っていた。変わらないものは少なかった。竹林はその数少ない一つだった。

今朝は、竹林が子どもを出した。

それだけのことだと、コウジは思った。

調査報告書:KGY-7

記録自動継続中

経過時間:1時間04分

データ点No.003

入力:聴覚、断続的音響

音源:外部環境(植物群、風媒動作)

周波数:180ヘルツから4200ヘルツの複合音

類似データなし(記憶封印中のため)

状態分類:分類不可

データ点No.004

入力:体温保持、継続中

外部個体による体温供給あり

有機体接触、両側上肢

状態分類:安全と推定

追記:

センサーは現在、外部個体の行動パターンを消去予定として記録している。しかし上記四データ点は消去対象リストに移行されていない。原因:不明。担当プロトコルの確認を要する。

夜が明けきった頃、子どもが目を開けた。

泣かなかった。

コウジを見た。コウジは子どもと目が合い、その目の色が、黒でも茶でもなく、深い水の底のような色をしていることに気がついた。夜明け前の林の色だと思った。

「おはよう」とコウジは言った。

子どもは何も言わなかった。ただ見ていた。どこか、こちらを計っているような目だとコウジは感じたが、しかしそれはきっと自分の思い込みだろうと考えた。赤ん坊には赤ん坊の見方があるだろう。

「腹が減っただろう」

コウジは哺乳瓶を持ってきた。子どもの頭を支え、傾けた。今度は迷いなく飲んだ。小さな手が哺乳瓶のへりに触れた。

台所に朝の光が入ってきた。竹林の影が窓に揺れた。やかんが冷めていく音がした。コウジは椅子に座り、膝の上の子どもを眺め、遠くで鳥が鳴き始めるのを聞いた。

今日も畑仕事がある、と思った。それからこの子の寝床を作らなければならない、とも思った。もう少し暖かいものを出してやらないといけない。おそらく名前も要るだろう。

コウジはしばらく考えて、窓の外の竹林を見た。

「カグヤ」

声に出してみた。

悪くなかった。むかし、ずいぶんむかし、妻と一緒に読んだ話の中の名前だった。竹から生まれた子どもの話。コウジはその話があまり好きではなかった。終わり方が寂しすぎる。だがその名前だけは、ずっと心の中に残っていた。

「カグヤ」

もう一度呼んだ。

子どもはコウジを見た。名前に反応したのか、声に反応したのか、分からなかった。ただ、その水の底のような目が、静かにコウジの顔を映していた。

調査報告書:KGY-7

経過時間:1時間47分

外部個体より音声刺激、受信。

内容:二音節、反復。

意味:記録不可(言語データベース封鎖中)

ただし、音声波形は記憶領域の最優先キャッシュに自動保存された。

原因:システムエラーの可能性。あるいは———

記録、ここで途切れる。

竹林の方から、風が吹いた。

やかんが小さな音を立てた。カグヤと呼ばれた子どもは、コウジの膝の上で、長い息を吐き、また目を閉じた。今度は、先ほどよりも深く眠るようだった。

コウジは立ち上がって茶を淹れ直した。湯呑みを二つ、机の上に並べた。片方は自分のもので、もう片方は誰のものでもなかったが、あってもいいような気がした。

外では竹が鳴っていた。

夜明けの光の中で、その音だけが、変わらずにあった。

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