その日の午後、僕は一度だけ、ノートを持って部屋に戻ろうとした。
階段を三段登ったところで足が止まった。何かが、そうしないよう言っていた。命令ではなかった。ただの重力のなさというか、ある方向には進めなかった。僕は三段目に立ったまま少しの間考えて、それから引き返した。ノートは部屋にある。今日は取りに行かない。なぜそう決めたのか、その時はまだわからなかった。
酒場に戻って、昼過ぎの暇な時間をカウンターの内側で過ごした。常連が二人来て、それぞれ一杯だけ飲んで出ていった。片方は何も言わず、もう片方は天気の話をした。港の方角が、風向きによって変わる、と言っていた。意味はよくわからなかったが、僕は頷いた。
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