Chapter 1: The Diamond Arrives at Shohoku

桜木花道は、他の生徒たちより十五分早く教室に着いた。

意図的な選択だった。遅く来れば、三十の視線が一斉に扉へ向く。早く来れば、まだ人影のまばらな部屋に、ただの一人の生徒として滑り込める。そういう計算を、彼は十年かけて身につけた。バスケットボールと同じくらい、丁寧に。

四月の朝の教室は、黒板消しの白い粉と、誰かのシャンプーの匂いと、新しい教科書の糊のにおいが混ざり合っていた。花道は一番後ろの列、窓際から二番目の席に腰を下ろし、鞄を膝の上に置いた。窓の外には、まだ名前を知らない桜の木が三本並んでいた。花びらは半分散っていた。

見知らぬ生徒たちが、少しずつ席を埋めていった。

花道は彼らを観察した。観察は、彼が幼い頃から持っていた癖だった。コートの上でも、コートの外でも、目に入るものをすべて無言で分類する習慣。あの男は太ももが太い、おそらく陸上かサッカーをやっている。あの女の子は右の肩だけ少し下がっている、重い鞄を長年片側で持ち続けたのだろう。窓際の席に座って真っ先に参考書を開いた男子は、視線が本の中身ではなく表紙を向いている、緊張を隠すために本を盾にしているのだ。

誰も花道を見なかった。少なくとも、特別な目では。

それでいい、と花道は思った。

中学最後の試合が終わったとき、彼を取り囲んだのは記者と、コーチと、父兄会の代表と、県の強化指定選手選抜委員会とやらの男だった。花道は当時十五歳で、ユニフォームがまだ汗で重かった。彼らは口々に言った。神奈川の原石。逸材。この子が本気を出せば全国は間違いない。その言葉の洪水の中で、ただの一人も、花道本人に向かって話しかけなかった。彼らが話していたのは、花道という存在が持つ「可能性」という名の別の何かで、花道自身は、ちょうどその場にいない人間のように、その円の外に立っていた。

高校は、湘北にした。誰もが意外に思うような選択を、彼は一人で決めた。強豪でもなく、注目もされていない。一年前の全国大会には出場すらしていない公立校。特に理由はなかった。理由がないことが、理由だった。

担任が出席を取り始めた。花道はあいうえお順で遅い名前を持っているので、自分の番が来るまで少し時間があった。窓の外で桜の花びらが一枚、横切った。彼はその軌跡を目で追い、見えなくなってから、また前を向いた。

「桜木花道」

「はい」

声は平坦だった。意図してそうしたわけではない。ただ、十年分の練習の結果として、彼の声には感情を乗せる習慣がなくなっていた。

誰も振り返らなかった。

花道は、かすかに息を吐いた。

昼休みが終わり、午後の授業が二コマ消えていった。放課後になったとき、花道はすでに教室を出ていた。

体育館の場所は、登校の途中に確認してあった。南校舎の裏、渡り廊下を抜けた先にある古い建物。外壁のペンキが数カ所剥げていて、屋根の端にはツバメの古巣が残っていた。扉は引き戸で、取っ手のところだけ、無数の手が触れ続けた証として、色が違っていた。

入学初日に、わざわざ体育館に来る生徒はいない。

そう、花道は見当をつけていた。

引き戸を引いた。

ボールの音が聞こえていた。

入る前から聞こえていた。それなのに、花道は入り口で一瞬止まった。理由は音ではなかった。音の質だった。

体育館のフロアは薄暗く、窓から差し込む夕方の光が斜めに床を切っていた。ゴールは二つ。遠い方のゴール下に、一人の男が立っていた。

男はシュートを打っていた。

ただそれだけのことだった。

しかし、花道が今まで見てきたどんなシュート練習とも、何かが根本的に違った。

違いを言語化するのに、花道はしばらくかかった。技術ではない。フォームは整っているが、それが異様な点ではない。距離ではない。特別遠くから打っているわけでもない。違いは、その男がボールを放った後も、バスケットを見ていないことだった。ボールが弧を描いてリングを通り抜け、ネットが鳴り、床に落ちる。男は自分で拾いに行く。また同じ位置に戻る。また打つ。そのどこにも、確認の動作がなかった。入ったかどうかを確かめる、あの微妙な視線の揺らぎが、完全に存在しなかった。

まるで入ることが、疑問の外にある事柄であるように。

いや、違う。

花道は一歩、フロアに踏み込んだ。

入ることへの関心が、そもそもないのだ。

この男がやっているのは、結果を積み上げる行為ではなく、別の何かだった。花道にはその「別の何か」の名前がわからなかった。わからないこと自体が、不快だった。

男は花道の存在に気づいているはずだった。引き戸の音は静寂の中ではっきり響いたし、足音もした。しかし男は振り返らなかった。練習を止めなかった。リズムも変えなかった。無視しているのではない、ということだけは、花道には判別できた。無視と、関心の外にあることは、似ているが違う。前者は意識の作用であり、後者はその欠如だ。

男は単純に、今、ここにいた。

花道は壁際に歩き、ベンチの端に腰を下ろした。

男のシュートを見ていた。

ボールがリングを通過するたびに、ネットの音がした。乾いた、かすかな音。外れることがなかった。正確に言えば、外れることがないのではなく、外れることと入ることの間の差が、この男にとってはほとんど存在しないように見えた。フォームが完全に体に染みついていて、毎回の動作が工場の機械のような再現性を持っていた。ただし機械と違うのは、その動作に何か、息をしているものの感触があることだった。

花道は自分が観察していることに気づき、少し驚いた。

普通、他の選手のシュートをこれほど長く見ることはない。見る必要がないから。見ても、自分のプレーの参考になるほどの技術を持つ相手に、滅多に出会わないから。そういう意味では、この男の技術は確かに水準を超えていた。しかし花道が視線を外せないのは、技術の問題ではなかった。

男が、どこか遠い場所にいるように見えた。

同じフロアに立っていて、五十メートルも離れていないのに、まるで別の場所から声が届くような、そういう距離感。

花道はそれを、羨ましいとは思わなかった。

ただ、名前のつかない感覚として、胸の中に留まった。

男がボールを拾い、振り返った。

目が合った。

一秒か、二秒か。

男の目は黒く、静かだった。感情を映していないのではなく、感情そのものが静水のような性質を持っていた。花道は、スポーツ誌のインタビューで何度もカメラを向けられた経験から、視線の種類を読み取ることに慣れていた。値踏みする視線。畏怖する視線。利用しようとする視線。嫉妬する視線。それらのどれでもなかった。

単に、見ていた。

それだけだった。

しかし「それだけ」の中に、花道が今まで誰の目にも見たことのない何かがあった。特定する言葉を、彼は持っていなかった。

男は視線を切り、また練習に戻った。

花道は、自分の手のひらをしばらく見ていた。何かを探すように。自分でも何を探しているのかわからないまま、視線を上げ、また男のシュートを見た。

窓の外で、陽が傾いていた。桜の木の影が、グラウンドに長く伸びていた。体育館の中には、ボールの音だけがあった。規則正しく、乾いた音。それは静寂の一部のように聞こえた。

花道は立ち上がった。

帰るつもりだった。

入学初日だ。余計なことをする必要はない。自己紹介も、会話も、名前を交わすことも。ただ静かに席を立って、引き戸を開けて、出て行けばいい。

しかし体育館を出る前に、もう一度だけ振り返った。

男は変わらず打ち続けていた。こちらを見ていなかった。

花道は引き戸を閉めた。

金属の擦れる音が、夕暮れの校舎の空気に短く溶けた。

渡り廊下を歩きながら、花道は自分の胸のあたりに、何か小さくて輪郭のはっきりしない感覚があることに気づいた。不快と言うほどではなかった。ただ、そこにあった。今まで感じたことのない、知らない感触だった。

コートを離れるとき、いつもなら何も残らない。記憶だけが残る、数字と軌跡の。感情は残らない。必要がないから、そういう仕組みに、いつの間にかなっていた。

今日は何かが残った。

花道は渡り廊下の手すりに片手を触れながら歩いた。冷たいスチールの感触が、指先にあった。

名前も知らない男のシュートフォームが、網膜の裏に焼きついていた。

Like this novel?

Create your own AI-powered novel for free

Get Started Free
Chapter 1: The Diamond Arrives at Shohoku — 天才の代償――孤独なコートの王者 | GenNovel