翌朝、颯斗は事務室の前に立っていた。
吾輩がそれを知ったのは、八時四十分頃のことである。廊下の角に置かれた飾り棚の水鉢——千露楼の水系に細い管で繋がれた、観葉植物の根元にある小さな陶製の鉢——が、ある特定の足音に反応して、水面をごくわずかに震わせたからだ。颯斗の歩き方には固有の振動数がある。踏み出しが均等で、踵の落ち方が几帳面で、床板への接触が必要以上に丁寧な、あの歩き方だ。それが今朝は、いつもより若干間隔が短かった。
吾輩は、水槽の中で姿勢を整えた。
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