火曜日の午後三時十七分、野々村ダイスケが帰宅すると、玄関の前に段ボール箱が置いてあった。
人の腰ほどの高さがある。側面に赤いスタンプで「精密機器・取扱注意」と押されているが、インクが滲んで「注」の字だけ読み取れない。差出人の欄は空白だった。
ダイスケは靴のつま先でそれを軽く蹴った。箱は動かなかった。
母親のハル子はまだ仕事中のはずだった。ダイスケはランドセルを下ろし、段ボールをまたいで部屋に入り、冷蔵庫からプリンを取り出した。
六時過ぎにハル子が帰ってきた。
「あら」と彼女は言った。「来てたのね」
驚いた様子はなかった。コートを脱ぎながら、鞄の中から書類を一枚引き抜いた。受領確認書らしかった。彼女はボールペンでさらさらと署名した。読んでいなかった。読む様子もなかった。
「何が入ってるの」とダイスケは聞いた。
「さあ」とハル子は言った。「開けてみれば」
開けたのはハル子だった。カッターで上辺を切り、梱包材を引き剥がし、中身を見て「まあ」と短く言った。その声に感情の色はなかった。
ダイスケが覗き込むと、そこには人型のものが折りたたまれていた。
関節という関節がきちんとした角度で収まっている。表面はくすんだ白で、日に焼けたというより最初からそういう色だったように見えた。胸のあたりに小さく「Dora-7」と刻印されている。腹部だけが妙に膨らんでいて、外付けのポーチのようなものが取り付けられていた。
ハル子は台所に行ってお湯を沸かした。
「動かさないの」とダイスケは聞いた。
「待ってれば動くんじゃないかしら」
七分後、Dora-7は動いた。
頭が持ち上がった。首が回った。目に当たる部分が淡く光った。電子音の類は何もしなかった。ただ、静かに立ち上がった。台所のハル子と同じくらいの背丈だった。
「お手伝いいたします」とDora-7は言った。声は穏やかで、抑揚が正確すぎた。「野々村ダイスケ様、ならびに野々村ハル子様。ドラシリーズ第七号機です。以後よろしくお願いします」
ダイスケは一歩退いた。
「いらない」
「承知しました。不要の旨、記録いたします。何かお手伝いできることはございますか」
「今いらないって言った」
「おっしゃる通りです。『いらない』というご意向のお手伝いも可能でございます」
ダイスケは黙った。
ハル子がカップ二つを持って戻ってきた。一つをダイスケの前に置き、もう一つを自分で飲んだ。Dora-7を見て、特に何も言わなかった。
「ご飯作れる?」とハル子はDora-7に聞いた。
「可能です」
「じゃあお願いしようかしら」
「承知しました」
Dora-7は台所に向かった。冷蔵庫の中を確認し、棚を開け、食器の位置を把握した。動きに無駄がなかった。ノイズも出なかった。それが余計に不気味だった。
ダイスケは自分の部屋に引っ込んだ。
夕飯は鶏肉と白菜の煮物だった。ダイスケは箸を持ったまましばらく食べなかった。
「おいしいわよ」とハル子は言った。
「知ってる」とダイスケは言った。食べた。おいしかった。それが余計に腹立たしかった。
その夜、Dora-7はリビングの隅に立ったまま静止した。電源を切る場所が分からなかった。スイッチらしきものが見当たらなかった。ダイスケが「どこで寝るの」と聞くと、「睡眠の必要はございません」と答えた。
「ずっと立ってるの」
「さようでございます」
ダイスケは部屋に戻り、ドアを閉めた。
深夜一時すぎ、音がした。
かちん、という小さな音だった。
ダイスケは目を開けた。暗い部屋。音はリビングからだった。
廊下に出ると、Dora-7がいた。腹部のポーチが少し開いている。床に何かが落ちていた。ペットボトルのキャップだった。透明な、ありふれた形のキャップだ。
ダイスケは拾い上げた。
軽かった。普通のキャップだった。ただ、側面に小さく年号が刻まれていた。
二一四七年。
今年は二一三三年だった。
「これは」とダイスケは言った。
「誤って落下いたしました。申し訳ありません」とDora-7は言った。「ポーチの中の整理が行き届いておらず」
「この年号」
「はい」
「まだ来てない年だけど」
「さようでございます」
「なんで」
「説明が複雑になります」
ダイスケはキャップを床に置いた。Dora-7はそれを拾い、ポーチに戻した。チャックが閉まる音がした。
ダイスケは自分の部屋に戻った。
翌朝、ダイスケは六時半に起きた。顔を洗い、制服に着替え、パンを一枚食べた。ハル子はもう仕事に出ていた。
玄関で靴を履いていると、後ろに気配があった。
Dora-7が立っていた。
「何」
「ご登校のお供をいたします」
「いらない」
「承知しました」
Dora-7は動かなかった。
「いらないって言った」
「おっしゃる通りです。記録いたしました」
ダイスケはドアを開けて外に出た。
後ろから足音がついてきた。Dora-7の歩行音は静かだったが、無音ではなかった。コンクリートの上を歩く、かすかな規則的な音。
ダイスケは振り返らなかった。
八百メートル先の学校まで、二人は一度も話さなかった。ダイスケは前を見て歩いた。Dora-7は三歩後ろをついてきた。
通学路の途中で、二丁目の主婦が洗濯物を干しながらこちらを見た。
特に何も言わなかった。
この街では、奇妙なことはたいてい誰にも説明されない。されなくても、なんとなく続いていく。それがこの時代の普通だった。ダイスケの普通でもあった。ただ今日は、その普通がほんの少しだけ重くなった気がした。
学校の門の前でDora-7は止まった。
「ここでお待ちします」
ダイスケは答えなかった。門をくぐった。
Dora-7はそこに立っていた。帰りまで。