Chapter 1: The Sandal Weaver's Oath at Zhuo Commandery

涿郡の空に、煙が上がっていた。

朝靄がまだ低く垂れこめる刻限に、それは始まった。最初の一筋は地平の彼方、おそらく安喜の方角から立ち昇り、やがて二筋、三筋と増えていった。煙は黒く、重く、風に千切れることなく真っ直ぐ天へと伸びた。燃えているのが藁葺きの民家なのか、官の倉庫なのか、あるいは人そのものなのか——遠目には分からなかったが、涿郡の市場で朝の仕事をしていた者たちは、誰もその問いを口にしなかった。問うまでもなかったからである。

黄巾の賊が来た、とどこかで誰かが叫んだ。

声が波のように広がった。商人が台を引きずって逃げ、魚売りが桶を蹴倒し、子供を抱いた女が泥の中に転んだ。人の群れが一つの方向へ、次の瞬間には逆の方向へと流れ、まるで風向きの定まらない穂波のようだった。

その騒乱の中を、一人の若い男が逆流するように歩いていた。

年は二十三、四というところか。背は高く、腕が妙に長い——垂らせば膝まで届くかと思われるほどで、これが後に幾度となく語り草になるのだが、今のところそんなことを気にする者はいない。顔は細く整っており、切れ長の目が静かに前を見ている。着ているのは粗末な麻の衣で、腰には草鞋職人の道具袋を提げていた。逃げる人波の中でこの男だけが急いでいなかった。

劉備、字を玄徳という。

彼が足を止めたのは、城壁の一角、日当たりの悪い石積みの前だった。そこに一枚の文書が貼り出されており、人々が逃げ惑う中でも剥がれずにいた。糊が分厚く、雨風にも耐えるよう念入りに貼られていた——官というものは、こういうところだけ丁寧なのだ。

文書は徴兵令だった。

漢朝の璽が押され、涿郡太守の名が記され、黄巾賊の乱を鎮めるため義勇の士を募るという内容が、崩れた官体の文字で書かれていた。糊の縁が黴びていた。この令が貼られてから、すでに数日が経っているらしかった。

劉備はしばらく文書を眺めていた。

周囲では人が走り、怒号が飛び、誰かの泣き声が断続的に聞こえた。それらの音が彼の背後で続いているのに、男は動かなかった。文字を読んでいるのか、それとも別のことを考えているのか——判断しかねる表情だった。ただ一つ確かなのは、それが怠惰の静止ではないということだ。水面が静かであっても、その下で何かが動いているような気配が、この男の立ち姿にはあった。

やがて彼は、ため息をついた。

それは短いため息だった。しかし「ため息」という言葉の持つ諦念や倦怠感とは、いささか異なるものだった。むしろ何かを確認したときの息の吐き方、長い迷路の末に正しい曲がり角を見つけた人間が、思わず漏らす種類の呼気——そういうものに近かった。

少し立ち止まって考えてみなければならない。

劉備という人間の出自については、彼自身が好んで語った版と、現実の版が存在する。彼が語った版によれば、彼は中山靖王劉勝の末裔、すなわち漢の皇族の血を引く者ということになる。現実の版によれば、彼は涿郡の片隅で草鞋を編んで暮らす貧しい青年であり、母と二人、細々と生計を立てていた。矛盾しているように見えるが、実は矛盾しない。帝国が三百年続けば、皇族の末裔など全土にあまた散らばる。血筋だけでは飯は食えない。劉備はその現実を、誰よりも精確に知っていた。

問題は、彼がその血筋を信じていたかどうか、である。

信じていたとすれば、それはなぜか。信じていなかったとすれば、なぜそれを語り続けたか。彼自身の内面がいかなるものであったかは、今となっては誰にも分からない。分からないまま記しておくのが誠実というものだろう。

草鞋職人の道具袋を腰に提げた男が、徴兵令の前でため息をついた。そのため息が何を意味していたか——それだけは、彼が死ぬまで、おそらく彼自身にも完全には分からなかったのではないかと思う。

城壁から離れた劉備は、市場の喧騒を横切り、城外へと出た。官道を少し外れた場所に、彼の仕事場があった。粗末な小屋の軒先に、編みかけの草鞋が数十足、藁縄でまとめて干されていた。母が中から出てきて、息子の顔を見た。

「どこへ行くつもりです」

老いた声ではなかったが、乾いた声だった。何度か同じような場面を経験した人間の声音だった。

「少し、出ます」

「戻ってきますね」

「戻ります」

会話はそれだけだった。劉備は道具袋を小屋の柱に引っかけた。草鞋を编む道具は、もう必要ない。少なくとも当分の間は。そう思いながら、彼はなぜかもう一度だけその道具袋を眺めた。藁のにおいが漂っていた。土と、わずかな汗のにおいも。

彼が歩き出したのは、東の方角だった。煙の上がっている方ではなく、城外の農地が広がる方へ。目的地があるというより、人を探している歩き方だった。

桃の木が数本、畑の端に並んでいる場所があった。

この時期、花はとうに散り、青い実が枝に重く垂れ下がり始めていた。木陰には粗末な石卓があり、誰かが酒を持ち込んで前夜に飲んだのか、割れた陶片が草の中に転がっていた。

先客がいた。

一人は柱のように立っていた。身の丈は六尺を優に超え、肩幅は常人の倍近い。顔は赤銅色で、長い髭が胸まで垂れている。目は細く、しかし細いのに何もかもを見透かしているような気配があった。武器は持っていないが、持っていなくても十分に武器である、という種類の体格をしていた。後に関羽、字を雲長と呼ばれることになるこの男は、現在のところ単なる流れ者だった。故郷の河東を離れ、訳あって涿郡に流れてきたとだけ言い、詳細は語らなかった。

もう一人は地面に腰を下ろし、棒きれで土を突っついていた。こちらは関羽とは対照的に、どこか荒っぽく、作りかけの何かのような印象を与えた。顎が張り、眉が太く、笑うと歯が多すぎるほど見えた。声は大きく、笑い方は豪快で、繊細さとは無縁に見えたが——それが彼の最大の武器であり、最大の弱点でもあることを、今は誰も知らない。張飛、字を翼徳。涿郡で小さな肉屋と酒場を営んでいた。

三人は顔見知りではあった。しかし親しいかと言われれば、それほどではなかった。

「来たか」と張飛が棒きれを放り投げた。「貼り紙、見たか」

「見た」

「俺も見た。雲長も見た。どうする、玄徳」

劉備は桃の木の一本に背を預けた。青い実の一つに軽く触れると、まだ固かった。熟れるには早い。

「行くしかあるまい」と彼は言った。

「漢のために戦うか」と関羽が言った。それは質問というより確認だった。

「漢のため」と劉備は繰り返した。少し間があった。「民のため、と言うべきかもしれぬ。燃やされているのは、どちらも同じ百姓の家だ」

関羽は何も言わなかった。同意したのか、あるいは別のことを考えていたのか、その沈黙は判然としなかった。

張飛が立ち上がり、土を払った。「俺は金を少し持っている。武具を揃えられる。人も集められるかもしれぬ。どうだ、三人で旗を立てるか」

「旗」と劉備が言った。

「なんでもいい。義勇の旗とでも書いておけ。人は集まる。今の世に武器を持って立ち上がろうという男は、拠るべき旗さえあれば集まってくる」

これは正しかった。後に証明されることだが、張飛は政治の細部には疎くとも、人の動く原理については驚くほど正確な直感を持っていた。

桃の木の下で、三人は少し沈黙した。遠くで誰かの叫び声がした。煙の匂いが風に乗って届いてきた。青い桃の実が、重さに耐えかねたように一つ、枝から落ちて地面に転がった。

「誓いを立てるか」と劉備が言った。

「誓い」と張飛が笑った。「おう、それがいい。天に誓い、地に誓う。この三人、生死を共にすると」

関羽がゆっくりと腰を折り、地面の桃の実を拾い上げた。指先でそれを転がし、しばらく見つめてから、草むらへ静かに放った。

「生死を共にする」と彼は言った。声に感情はなかった。ただ言葉の重みだけがあった。

劉備は空を見上げた。煙はまだ上がっていた。三筋が今は五筋になっていた。

「義をもって天下に報いる」と彼は言った。「それだけで十分だ」

三人は向かい合い、天に向かって拳を上げた。

ここで一つ、問いを立てておかなければならない。

この桃園の誓いは、後世に幾千遍となく語り継がれることになる。義兄弟の契り、命を賭けた盟約、乱世の義の象徴として。絵に描かれ、語り物になり、廟に祀られる。しかし問いは残る。

あの朝、桃の木の下で拳を上げた三人は、何に誓ったのか。

互いへの信義か。それとも、互いが相手に見出した何かの可能性への誓いか。劉備は二人の武勇という実力を得た。関羽は劉備という大義という名の旗を得た。張飛は——おそらく、居場所を得た。それまで余っていた力と熱量の行き先を。

誓いとは、ときに当事者の内心よりも正直に、各人が相手に何を求めているかを示す儀式である。三人は義を誓ったが、各人が「義」という言葉に込めた意味は、完全には一致していなかったかもしれない。それでも誓いは有効だった。いや、むしろそれゆえに有効だった。人間の盟約というものは、意味が完全に一致したときよりも、各人が各人の解釈で同じ言葉を口にしたときの方が、往々にして長く続く。

涿郡の空の煙は増え続けていた。

劉備は道具袋を思い出した。柱に引っかけた、草鞋を編むための道具。あれをもう使わないとは、まだ思っていなかった。ただ、しばらくの間は必要ない——そう考えただけだった。

しかし彼が再びあの道具に手を触れることは、生涯なかった。

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Chapter 1: The Sandal Weaver's Oath at Zhuo Commandery — 覇河——三国残照記 | GenNovel