Chapter 1: The Shape of a Man Who Forgot How to Want

刃を砥石に当てるたびに、金属の鳴く声がする。

高い音だ。訴えるような、あるいは何かを諦めたような、そういう音。兵舎の端の磨り減った木製の長椅子に腰かけて、私は今日も同じ作業を繰り返している。柄を握る指の角度、砥石を引く角度、圧力の配分。すべて正確に、すべて適切に。そして何一つ、意味のないことはない。何一つ、私の心を動かすものもない。

壁の上の午後は静かだ。

私の名前は柊レン。調査兵団の一員であり、一昨年の卒業試験では中位で通過した。上位でも下位でもなく、中位。これは私という人間を過不足なく説明する数字だと思っている。突出した才能はない。しかし即座に死ぬほど無能でもない。適当に動いて、適当に生き延びて、気がつけば今日もこうして砥石を握っている。

なぜ今日も生きているのか。

その問いに対する答えを、私はどこかに落としてしまったらしい。いつ落としたのかも、どこで落としたのかも、思い出せない。ただ、あるはずの場所に手を伸ばすと、空洞だけがある。その空洞の形が、かつて何かで満たされていたことを示す輪郭を持っているのが、いっそうたちが悪い。

刃が光る。

砥石の上を滑るたびに、鈍い鋼が少しずつ研ぎ澄まされていく。私はこの刃を扱う資格があるのだろうか、と思う。いや、正確には、「資格があるのだろうか」という問いを、ただ漫然と眺めている。答えを求める気力もなく、問いを封じる気概もなく、ただそこに問いがあることを傍観者として確認している。

壁の外は、今日も巨人の領土だ。

人類が壁の内側に閉じ込められて何年になるか。私が生まれる前から壁はあり、私の記憶の中でも壁はあり、おそらく私が死んだ後も壁は残るだろう。高さ五十メートルの石の壁。ウォール・マリア、ウォール・ローゼ、ウォール・シーナ。三重の囲いの中で、人類は羊のように暮らしている。いや、羊を侮辱することになるかもしれない。羊は少なくとも草を食む喜びを持つ。

「レン、お前また一人か」

背後から声がかかった。

振り返るより先に、足音の重さと歩幅で誰かは分かっていた。班長の久世智樹が、巡回から戻ったばかりの体で壁の階段を下りてきていた。三十代前半、すでに調査兵団に十年以上いる男で、顔には日焼けと、それ以外の何かが深く刻まれている。

「一人じゃないですよ」と私は言った。「剣がいます」

「剣は喋らんだろう」

「喋らないから都合がいい」

久世班長は軽く笑って、私の隣に立った。巡回後の汗と、鉄の匂いがする。私が完璧に計算して返した軽口を、彼はいつもこうして笑い飛ばす。傷つきもせず、引っかかりもせず、しかし聞き流してもいない。その受け取り方が私には少し不思議だった。あるいは、羨ましかった。

「今夜は早めに休めよ。明後日から壁外調査の準備だ」

「了解です」

「了解です、か」彼は空を見上げた。「お前、いつもそれだな。了解です、はい、分かりました。返事だけは完璧だ」

私は微笑んだ。これも訓練の成果だ。どんな局面でも適切な笑顔を用意できる。相手が何を求めているかを瞬時に読み取り、それに合った表情を出力する。私の顔面は優秀だと思う。心の動きとは全く独立して機能するという点において。

久世班長は何か言いかけて、それから止めた。私は彼がその先の言葉を選んでいることに気づいていた。しかし選ばれた言葉は、ただ「じゃあな」というものだった。

足音が遠ざかる。

私はまた砥石に向かう。

金属が、また鳴く。

壁の上の夕方、というのは独特の空気がある。

兵士たちが交代の時間を境にばらばらと引き揚げていく。残された壁の上は急に広くなる。私はいつもこの時間に一人で立つことがある。立つのに理由はない。帰る場所が兵舎しかないのだから、少し遅れたところで何も変わらないというだけのことだ。

ウォール・マリアが茜色に染まっている。

地平線の向こうに太陽が沈んでいく。雲がいくつか、燃えるように橙色に縁取られている。壁の外に広がる野原は、この距離からは静かで、むしろ穏やかですらある。遠くに見える影がなければ、誰かが牧草地だと言っても信じただろうか。

巨人の姿は今日は見えない。

見えたところで、私の胸に湧き上がるものはなんだったろう。恐怖、か。怒り、か。それとも、ただの確認。あ、いる、という。

私は壁の石に手を触れた。冷たい。一日の光を吸って、少しだけ温もりを残しているはずの石が、夕暮れの中ではもうすっかり冷えている。毎日こうやって触れているのに、今日初めて冷たいと気づいたような気がした。或いは、ずっと冷たかったのを今日も確認したというだけかもしれない。

ふと、何かが脳裏に浮かんだ。

女の人の手だった。

細くて、少し荒れた手。指の節々に、それまでの労働の記録がある。その手が私の頭を撫でた。それだけの記憶だった。声も顔も、その周囲の情景も、何一つついてこなかった。ただ手だけが、一瞬、光の残像のように現れて——

私はすぐにそれを押し込めた。

意識的な動作だった。かつては押し込めるのに力が要った。今はもう、呼吸のように自然にできる。それがどういうことかは、考えないようにしている。考えないようにしていること自体を、考えないようにしている。

何年もかけて積み上げた技術だ。

夕陽は着実に沈んでいく。空の色が橙から茜へ、茜から暗紅へと変わっていく。美しい、という言葉が、記号として頭の中を通過していった。あれは美しいのだろう。そう言うべき景色なのだろう。私の周りの兵士たちが見たなら、何かを感じただろうか。故郷への想い、あるいは明日への覚悟、あるいは生きていることへの細やかな感謝を。

私の胸には、何もない。

空だ。

空洞でさえない。空洞には輪郭があるが、私の中にあるのはもっと均一なものだ。巨人の脅威に対する恐怖もなく、仲間への愛着もなく、自由への渇望もなく、ただ今日も壁の上に立ったという事実だけが積み重なっていく。

奇妙なのは、それを奇妙と思わなくなった日がいつか来たということだ。

私はいつからか、自分の中の空洞に慣れた。むしろ、感情というものを持つ他の人間たちの方が、少し過剰に見える。あの重さを背負って、よく毎日立っていられるものだと思う。羨ましいのか哀れなのか、自分でも判断がつかない。

太陽が沈んだ。

壁の外が、暗くなっていく。

私はいつものように、必要な時間だけそこに立ち、必要な時間が終わったことを確認して、階段を下りた。夕食の時間に遅れないよう。誰かが心配しないよう。明日も問題なく任務をこなせるよう。

その動作のひとつひとつが、完璧に機能していた。

ただ、それだけだった。

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Chapter 1: The Shape of a Man Who Forgot How to Want — 壁の内側で溺れる者 | GenNovel