翌朝、月は施設の廊下を歩いていた。
識別証がある。それだけで充分だった。プラスチック一枚が、この閉鎖空間においては存在の証明になる。写真のない緊急発行品であっても、首から下げてさえいれば、すれ違う研究者たちの視線が変わった——疑念から、無関心へ。人間は記号を信じる。記号を身に着けた存在を、自動的にその記号の意味する範疇に分類する。それは宇宙の真理ではないが、人間社会の真理だ。
廊下は白い。蛍光灯の光が、床のリノリウムに反射して均一な明度を保っている。窓は一枚もない。
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