Chapter 12: The Night Rin Stops Performing the Return

その夜、千露楼の水温は下がらなかった。

浴場が閉まった後も、廊下の石畳は昼間の熱を手放さず、湯気は低く漂って壁を濡らし続けた。吾輩の水槽の中でも、水はぬるく、どこか落ち着かない温度を保ったままでいた。季節の問題ではない、と吾輩は判断した。千露楼という建物が、今日起きた何かを、まだ消化しきれていないのだ。建物とて、無機物とは限らない。この湯屋が長年の間に蓄積してきたものが何であるか、吾輩は詳しく知らないが、少なくとも記憶くらいは持っているだろうと推測している。

颯斗が事務室を出たのは、夕刻の鐘が二つ鳴った後だった。

Sign in to keep reading

Create a free account to unlock all chapters. It only takes a few seconds.

Sign In Free

Like this novel?

Create your own AI-powered novel for free

Get Started Free
Chapter 12: The Night Rin Stops Performing the Return — 吾輩は奉公人である | GenNovel