帳場の奥に、もう一つの部屋がある。
吾輩が最初にそのことを把握したのは、いつのことだったか。正確な時期は覚えていない。吾輩の記憶というのは出来事に対して選択的で、重要でないと判断した事項については保存を怠る悪癖があるが、この帳簿部屋の存在については、おそらく最初から知っていた。ただ「知っていた」と「認識していた」は必ずしも同じではない——これは哲学的に重要な区別であって、人間というのはしばしばこの二つを混同して不必要な後悔を積み重ねるのだが、吾輩はその轍を踏まないよう努めている。
ともかく。帳場の奥の帳簿部屋に、一つの人影が棲んでいる。
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