千露楼の夜は、昼とは別の建物である。
これは比喩ではない。実際問題として、千露楼という施設は昼間と夜間とで物理的な広さが変化するのではないかと吾輩は長年疑っている。廊下の長さが、夜半過ぎには明らかに昼間より伸びている。扉と扉の間隔が広がる。天井が高くなる。あるいはこれは、昼間の騒音と人の気配が空間を圧縮していて、それが消えると本来の寸法が露出するということかもしれない。いずれにせよ、千露楼の深夜は一種の別世界であり、吾輩はその別世界の住人として、相当の年数を過ごしてきた。
眠れない夜というものが、金魚にあるかどうか。
Create a free account to unlock all chapters. It only takes a few seconds.
Sign In FreeCreate your own AI-powered novel for free
Get Started Free