草原は、南から来るものを食う。
あるいは食うというより、静かに吸収する。南の人間が持ち込む一切のもの――その言語も、その礼法も、その悲しみの形式も――をひとつひとつ剥ぎ取り、代わりに風と沈黙を与える。それは残酷な交換ではない。草原はただそういうものであり、南の空気に馴染んだ肺が草原の空気を初めて吸い込むとき、肺そのものがわずかに驚いて、それからゆっくりと形を変えはじめる。霍清の母はそのようにして草原に食われた。数ヶ月かけて、あるいは数年かけて、彼女が臨安で身に着けたものは一枚ずつ剥がれ、最後に残ったのは息子を生かし続けるという一点の意志だけであった。
二人が蒙古の大汗の領地に辿り着いたのは、逃亡から三月を経た後である。
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