Chapter 2: Pigs at the Threshold

玄関の広間というものは、その建物の性格をもっとも正直に語る場所である。

わたしがそう思うのは、三百年の観察から得た経験則であって、建築哲学への傾倒ではない。念のため申し添えておく。人間の建てる建物は、正面を飾ることに精力を傾けすぎて、往々にして裏側に本心を漏らす。ところが忘我の湯の玄関広間は、飾ってあるものそのものが本心であるという、いささか倒錯した誠実さを持っていた。

広間は広い。広い、などという凡庸な形容を使って恐縮だが、広いとしか言いようがない広さというものが世の中にはあり、これはその典型である。天井は高く、柱は太く、床は黒光りする石畳で、どこかの川底から切り出されたか、あるいは時間そのものが固まったかのような艶を持っていた。正面には大きな衝立があり、そこに墨絵で描かれた滝が、音もなく永遠に落ち続けている。滝の絵だと気づくのに数秒かかる類の絵で、最初は単なる黒い染みに見える。染みが水であることに気づいた瞬間、冷たさを感じる。うまくできた仕掛けだとわたしは思っているが、誰にも言ったことはない。

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Chapter 2: Pigs at the Threshold — 我は名を持たぬ湯女なり | GenNovel