Chapter 8: The Night a God of Forgetting Checked In

忘却の神というのは、到着の仕方からして既に問題含みであった。

その夜、千霧楼の玄関に現れた客を、青白い顔の女は「松風様」と帳簿に記した。しかし煤丸が薪の補充のため一階を通りかかった際には同じ客が「瀬戸殿」と名乗ったと後に聞いた。吾輩が直接確認したわけではないが、受付を担当した別の湯女は「あの方は雲之丞とおっしゃっていた」と首を傾げていた。三者の証言に一致する点は、客が中肉中背の初老の男であること、薄灰色の着物を着ていること、そしてそれぞれ異なる名前を告げたにもかかわらず、そのことに一切の後ろめたさを示さなかったこと、の三点だけであった。

矛盾を指摘された客は、どうやら本当に矛盾を感じていないらしかった。

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Chapter 8: The Night a God of Forgetting Checked In — 吾輩は湯女である | GenNovel