朝というのは、忘我の湯においても、一応は来る。
ただし、この建物の朝は、外の世界のそれと少し質が違う。外の朝は光が先に来て、音が後を追う。ここの朝は音が先だ。大釜の湯を沸かす音、桶を積み上げる音、女中頭の廊下を歩く草履の音が、光より一呼吸早く廊下に満ちる。光は後から、申し訳程度に障子の隙間を染める。
わたしは三百年この建物にいるが、ここの朝の順番に慣れたことは一度もない。
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